AGL AGTのレビュー 本当にリアル?打ち込みのコツと本音
Ample Sound「Ample Guitar L」(AGL)、「Ample Guitar T」(AGT)のレビューです。
2011年に北京で設立され、ギター音源を中心に開発を続ける、現在までサポートと実績のあるデベロッパーです。
「本物のギターは弾けないから打ち込みで再現したい」
「打ち込みのギターはどうしても機械っぽくなる」
そんな悩みを抱えてませんか?
このAGL AGTは、これらを解決してくれるポテンシャルを秘めた音源です。
まずは、この2本で制作したデモ音源を聴いて、その実力の一端を感じてみてください。
伴奏にAGTとAGL、主旋律にAGLを使用しています。
この記事では、AGL AGTの魅力から、導入前に知っておくべき注意点までレビューします。
この音源を選ぶ理由- 実在の名器のサウンド:Alhambra、Taylorという実在するギターの生々しいサウンド
- 息をのむ空気感:弦の余韻やボディの鳴りまで収録した、リアルなサスティン
- 直感的に運指を編集:Riffer画面で弦移動のポジションを編集できる機能
- 多彩なアーティキュレーション:スライドやミュートなど、キースイッチ一つで生っぽさを加える
- 音作りの時短になるFXプリセット:即戦力になる17種のEQプリセットで、音作りを時短
- PCスペックを選ぶ動作の重さ:複数トラック使用時は、DAWごとフリーズする可能性も
- リアルさ故の打ち込みの奥深さ:ベタ打ちは機械的になりやすく、一手間加える工夫が必要
目次
温かく包み込むナイロン弦の響き AGL (Alhambra Luthier)
Alhambra「Luthier」をモデルとしたクラシックギターです。
指弾き、ピック弾き、ストラムを含む20のプリセットが用意されています。
ナイロン弦の丸く温かみのある音が特徴。
サウンドホールの反響からボディの鳴りも身近に感じられ、非常にクラシカル。
響きが豊かで、1弦から3弦、4弦から6弦の弦違いもバランス良くまとまっています。
穏やかで優しい音がするので、テンポのゆったりした曲に最適。
弦楽器やピアノとも相性が良いです。
デモ音源の主旋律は、このAGLの温かい音色を活かしたくて作りました。高音域でも耳に痛くない、丸みのあるサウンドが伝わるかと思います。
シャープで存在感抜群のスチール弦 AGT (Taylor 714ce)
Taylor「714ce」をモデルとしたアコースティックギターです。
こちらも同様に指弾き、ピック弾き、ストラムを含む20のプリセットが用意されています。
スチール弦の鋭くキレのある音が特徴。
ひとつひとつの音の輪郭が明瞭で、音像がはっきりしています。
レスポンスと粒立ちが良く、弦の振動が力強く伝わってきます。
ギターソロの旋律や、メッセージ性の強いメロディに使用すると効果的でしょう。
バンドサウンドにも埋もれることなく活躍してくれます。
デモ音源の伴奏パートにはAGTを使用。一音一音の輪郭がはっきりしているので、他の楽器に埋もれず、曲の土台をしっかり支えてくれます。
ギターの常識を超える、ピアノのようなサスティン表現
ここからは共通の仕様について。
音の減衰まで丁寧にサンプリングされており、自然なサスティンを実現しています。
ソロで構成すると、余韻の空気感も感じられます。
また、ホールド(サスティン)ペダルが搭載されており、ピアノのように扱えます。
本来ギターにはない機能ですが、使えるものは使いましょう。
ただ、音の切れ目にややノイズがのることがあります。
生演奏の「クセ」を再現 7つのアーティキュレーション
より生っぽいギター演奏に近づけるため、7つのキースイッチが用意されています。
- サスティン
- ナチュナルハーモニクス
- パームミュート
- スライドイン・アウト
- レガートスライド
- ハンマリングオン・プリングオフ
- スライドギター
例えばスライドイン・アウトは、midiノートのはじめ or おわりに描くと自動で認識してくれます。
また、ボディを叩く音やストロークノイズ、スクラッチなどの小技も収録。
フィンガリングの際に発生する音を観察し、狙って効果的に使いましょう。
音作りの迷子にならない 即戦力のFXプリセット
「FX」タブから音作りの画面に移ります。
左下の「Preset」から、あらかじめ設定された17種のEQを呼び出すことができます。
アコースティック、ベース、エレキなどジャンル別にフォルダ分けされており、かんたんにアクセス可能。
EQは調整を続けると耳の疲労も相まって、何が正解なのか分からず迷子になりやすいです。
そんなときにこのプリセットがあれば、時短に繋がります。
私が特に気に入っているのは「AG12 EQ Finger」というプリセットです。
指弾きの暖かさを残しつつ、不要な低音域がカットされていて、すぐにオケに馴染みます。
デモ音源も、これをベースに少しだけEQを調整したものです。
プリセットを色々試して、そこから微調整していくのが音作りの近道です。
【要注意】あなたのパソコンは大丈夫? 動作の重さと要求スペック
バージョンアップで改良されつつあるも、動作が重いです。
要求スペックは、「Intel i5 or higher」と明記されています。
私のパソコン環境(CPU Core i7, メモリ16GB)では、DAWが固まったりDAWごと落ちたりすることも。
特に再生しながら音色選択すると発生しやすいです。
対策
- 負荷のかかる作業は単独で行う
- トラックを一つ完成させるごとにオーディオ化(フリーズやバウンス)する
この辺はもっと改善してほしいです。
【本音レビュー】リアルさの裏側にある「3つの壁」とその乗り越え方
正直にお伝えすると、この音源をリアルに鳴らすのは簡単ではありません。
私自身、まだ勉強中で試行錯誤の連続です。
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Strummerモードだけでは「打ち込み感」が消えない
コードをジャカジャカ鳴らすStrummerモードは便利なのですが、デフォルトのままだと、どうしても均一的な演奏になりがちです。
「いかにも打ち込み」なサウンドになってしまう、という経験はないでしょうか。
そこで、ベロシティや発音タイミングを微妙にずらすことで、人間らしい揺らぎを表現できます。
手間はかかりますが、その分、生々しいグルーヴ感が得られます。
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思い通りの運指にならないならTAB譜の活用も
MIDIノートで打ち込むと、音源が自動で最適な指板ポジションを判断してくれます。
しかし、「このフレーズはもっとハイポジションで弾いた音にしたい」と感じることもあります。
そんな時は、Riffer編集画面に移ります。
例えば「5弦の開放弦」で鳴っている音を「6弦の5フレット」に変更するといった操作が可能です。
これにより、ギタリストが実際に弾くであろう運指をシミュレートでき、サウンドのリアリティが格段に向上します。
もしGuitar Pro(.gp3、.gp4、.gp5、.gpx)を所有していれば、先頭の1トラックを読み込むことが可能です。
これらの操作に慣れていると、打ち込みスピードを大幅に短縮できるでしょう。
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意図しないフレットノイズ
Ample Guitarは非常に賢く、休符を挟むと自動で「キュッ」というフレット移動ノイズを入れてくれます。
これは非常にリアルなのですが、静かなバラードなどでは目立ちすぎてしまうことも。
このノイズは、ボリュームオートメーションで消すことは可能ですが、やや不自然になる場合があります。
不要な場面ではノイズを軽減すれば、曲全体のクオリティがぐっと上がります。
おわりに この音源はどんな人におすすめか
Ample Sound「Ample Guitar L」「Ample Guitar T」の紹介と感想でした。
これらは手軽に良い音が出る音源ではないかもしれません。
リアルに鳴らすには相応の知識と手間が求められます。
機能面での安定性や打ち込みの手軽さだけを求めるなら、他の選択肢もあるでしょう。
もしあなたが、
- ボタン一つで完成する音楽に、物足りなさを感じている
- 打ち込みに自分の色を出したい
- 時間と手間をかけてでも、本物と聴き間違えるほどのギタートラックを作り上げたい
そんなDTM愛があり、挑戦したい気持ちがあるなら、間違いなく応えてくれるでしょう。
公式サイトにデモ版も用意されています。
まずはその音の確認と、あなたの制作環境で快適に動作するか体験してみてください。
おまけ デモ音源 このフレーズはこう作りました
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主旋律のスライド奏法
滑らかな音程変化は、キースイッチの「スライド」を使っています。
スライドイン(D#0)を指定するだけで、生々しい表現が可能です。
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伴奏の人間的な揺らぎ
クオンタイズ(音符のタイミングを揃える機能)を100%にせず、90%程度に設定しています。
さらに、ベロシティ(音の強弱)も一音ずつ手作業で調整し、機械的な正確さをなくしています。
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運指変更
最初MIDIで打ち込んだ5弦は、音が細い印象でした。
そこで、Riffer画面で運指を編集し、あえて6弦で演奏するように変更しました。
これにより、より太く、落ち着いた響きになっています。
現実だとしない(できない)ことを可能にするのも、DTMの奥深さですね。
▼Guitar Proの使い方
▼バンドサウンドにおすすめベース音源