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13分

YAMAHA CFXのレビュー ピアノ音源探しを終わらせた圧倒的なリアリティ

2024-07-10
2025-07-07

Vienna Symphonic Library「YAMAHA CFX」のレビューです。

無数にあるピアノ音源。

Keyscape、Ivory、Noire… それぞれ素晴らしいけれど、「いったいどれが自分にとっての正解なんだろう?」と、終わりのない沼に迷い込んでいませんか?

もしあなたが、ジャンルを問わず使える「本物のグランドピアノ」の音を一つだけ手に入れたいなら、Vienna Symphonic Library の「YAMAHA CFX」が、答えを示してくれるかもしれません。

この記事では、私が全てのピアノ楽曲でCFXを100%使用する理由と、その圧倒的な実力、そして導入前に知っておくべき注意点を、デモ音源を交えながらレビューします。

GOOD
  • 圧倒的なリアリティ:まるで目の前で弾いているかのような生々しいサウンド。
  • 驚異的な表現力:ピアニッシモからフォルテッシモまで、滑らかなダイナミクス。
  • オールジャンルな万能性:クラシックからポップスまで、どんな楽曲にも馴染む音作りが可能。
  • 即戦力のプリセット:インスピレーションを刺激するサウンドが多数。
  • 抜群の安定性:CPU負荷が軽く、制作中のストレスから解放される。
BAD
  • ライセンス管理:iLokに関する最低限の知識が必要。
  • ストレージ容量:最低でも約150GBの空き容量を要する。
  • 価格:ソロ音源としては高価。セールの活用が賢明。

目次#

グランドピアノ音源の最高峰#

ピアノ音源はたくさんあり、どれを導入するか悩むと思います。

そんな時にこの1台があれば、プラグイン選びに迷うことがなくなります。

多くのピアノ音源が「綺麗なピアノの音」を目指す中、CFXは「ピアノという楽器そのものの響き」を追求しています。

なんといってもその質感の良さ。

ピアニッシモ(pp)で触れるか触れないかの繊細なタッチから、フォルテッシモ(ff)で鍵盤を叩きつけるような力強い迫力まで、ベロシティレイヤーのつなぎ目が全く感じられないほど滑らかです。

これは、VSLがレコーディングスタジオ「Synchron Stage Vienna」で、膨大な時間をかけて丁寧にサンプリングしたからこそ実現できた技術です。

特筆すべきは、その生々しいメカニカルノイズ。

ペダルを踏んだ際の弦の豊かな共鳴(ストリング・レゾナンス)はもちろん、ハンマーが弦を打つアタック音、ダンパーが弦から離れるときの「フッ」というノイズまでが克明に収録されています。

これらの要素が複雑に絡み合い、まるで目の前でグランドピアノが呼吸しているかのような錯覚に陥ります。

ジャンルを越える万能性#

グランドピアノ=クラシックというイメージは、この音源には当てはまりません。

豊富なマイクポジションとミキサー機能により、楽曲に合わせて驚くほど多彩な表情を見せてくれます。

クラシックから現代ピアノはもちろん、ソロ、室内楽、コンサート作品まで柔軟に対応してくれます。

それだけではなく、ポップスやジャズにも雰囲気を損なうことなく楽曲を引き立ててくれるでしょう。

実際に私がピアノ音源を使用する際は、100%このCFXを用いています。

例えば、しっとりとしたバラードでは、「インティメイト」プリセットをベースに、クローズマイクの割合を少し上げ、温かく親密な響きを作ります。

逆に、ドラムやベースが激しいロックアンサンブルの中では、「ポップ」プリセットのEQで高音域を少し持ち上げて、音の輪郭を際立たせます。

こうすることで、他の楽器に埋もれることなく、ピアノらしいきらびやかな存在感を出すことができます。

これほどまでに音作りの幅が広いからこそ、私は他の音源を買い足す必要性を感じていません。

クセがなく、かつグランドピアノの良さを感じられるので信頼を寄せています。

即戦力のプリセット(音源あり)#

標準プリセットとして、次の6つが設定されています。

  • コンサート:ホールの響きを豊かに含んだ、王道のコンサートグランドサウンド。
  • インティメイト:奏者の息遣いまで聞こえそうな、温かく親密なサウンド。
  • プレイヤー:奏者自身が聴いている音に近く、練習や作曲に最適なバランス。
  • ポップ:他の楽器に埋もれない、輪郭のハッキリしたモダンなサウンド。
  • アンビエンス:空間の響きを強調した、映画音楽やアンビエントに最適なサウンド。
  • マイティ:力強さと迫力を最大限に引き出した、パワフルなサウンド。

このページをご覧になる方は公式サイトのデモ音源も聴いていることでしょう。

ただ、やはりプロが作っているので、実際どうなのと疑う人もいると思います。

そこで、私が打ち込んでみたいと思います。

条件はベロシティ書き込みのみ。同じmidiノートを使用しマイク別に書き出しました。

ボリューム、パン、ペダル類はデフォルトのままです。

音源の「素の力」を感じてみてください。

最初にマイクは「Room Mix」で6つのプリセットを鳴らしてみます。

次にマイク「Decca Tree Multi Mic」です。

最後に「Surround to Stereo Downmix」です。

いかがでしょう。

標準プリセットだけで、様々なアプローチが垣間見えます。

動作が安定している#

これだけの高品位な音源でありながら、驚くほど動作が軽いのも特筆すべき点です。

大容量ライブラリのため、初回の読み込みには時間がかかりますが、一度読み込んでしまえば「Synchron Player」エンジンは極めて安定しています。

OSを巻き込んでPCの電源が落ちる、なんてことは一度もありません。

DAWが固まることもありません。

創造的な作業に集中できるこの安定性は、高価な音源だからこそ備えていてほしい、重要なポイントです。

導入前に知っておくべき4つのこと#

CFXは素晴らしい音源ですが、誰にでも手放しでおすすめできるわけではありません。

後悔しないために、以下の4つの点を確認しておきましょう。

ライセンス管理がやや難しい#

以前はライセンス格納にVIENNAキー(USBドングル)が必要でした。

USBポート1つ使います。

今ではiLok Cloudに対応していますが、ライセンス移動や管理が手間です。

iLokアカウントの作成やライセンス管理に不慣れな方は、少し戸惑うかもしれません。

▼かんたんインストール手順

「Vienna Assistant」の「Not Installed」から「Synchron Yamaha CFX」をインストール

img

「iLok License Manager」から「Synchron Yamaha CFX」を「〇〇(アカウント名)Cloud」にドロップ

img

これで認証されます。

容量が大きい#

LibraryGB
Standard Library約150GB
Full Library約240GB

大容量なので、ストレージを圧迫します。

快適な動作のため、内蔵SSD、またはThunderbolt/USB4接続の高速な外付けSSDの使用を強く推奨します。

価格が高い#

Library
Standard Library€ 255(約4.5万円)
Full Library€ 490(約8.5万円)

私はセールとクーポンでFull Libraryが€ 244引きになりましたが、それでもソロ楽器としては非常に高価です。

その価格に見合うかは、よく考えたほうが良いでしょう。

急ぎでなければ、セール情報をチェックするのが賢い選択です。

ここで必ず悩むのが、Standard版とFull版の違いです。

結論から言うと、違いはマイクポジションの数です。

▼Standard Library

基本的なクローズマイクとミッドマイクを収録。

ポップス、ロック、ジャズなど、オケに混ぜる用途がメインなら、多くの場合これで十分です。

私も最初はStandard版でした。

▼Full Library

Standard版のマイクに加え、3Dサラウンドマイクで空間全体の響きを捉えるアンビエンス系マイクが追加されます。

壮大なオーケストラや映画音楽、ピアノソロ作品で最高の空間表現を追求したい場合は、Full版を選ぶ価値があります。

まずはStandard版から始め、必要なら後からFull版へアップグレードすることも可能です。

Keyscapeなど他の音源は不要になる?#

「CFXさえあれば、もう何も要らない?」と聞かれれば、答えは「目的による」となります。

純粋なコンサートグランドピアノを追求するなら、答えは「YES」です。

CFX一本で完全に満足できるでしょう。

ローズピアノやウーリッツァー、個性的なアップライトも使いたいなら、答えは「NO」です。

その場合は、様々なキーボードを網羅したKeyscapeなどが、引き続き活躍するでしょう。

CFXは「最高のグランドピアノ」、Keyscapeは「最高のキーボードコレクション」と、それぞれの役割があります。

CFXの音色 参考動画#

論より証拠、CFXを用いた動画を用意しました。

まるで目の前でピアノが鳴っているかのようなリアリティがわかると思います。

ストリングスはCSSSを使用しています。

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終わりに 最高のピアノで、最高の音楽体験を#

音は間違いなく素晴らしいです。

グランドピアノと言えばヤマハのCFX、という方にはたまらない音源です。

もしあなたがピアノ音源沼から抜け出し、作曲や演奏そのものに集中したいなら、この音源の導入は必ず音楽制作を数段上のレベルへ引き上げてくれるはずです。

高価ではありますが、一度手に入れれば「もう他のピアノ音源は要らない」と思えるほどの完成度です。

ピアノ音源探しの長い旅が、この記事で終わりを迎えることを心から願っています。

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