DTMの起源と進化はコンピューターの発展と共にある
「DTM」とは和製英語であり、海外では一般的に「Computer Music」と呼びます。
なぜ日本国内ではDTMが定着したのか。
その答えを探る鍵は、DTMという言葉が生まれた経緯と、その後の発展にあります。
その歴史はコンピューターの進化と密接に関係しています。
目次
DTMの由来は「ミュージくん」
DTMという言葉が一般的に広まったのは、1988年にローランド社が発売した「ミュージくん」がきっかけとされています。
ミュージくん:音源などのハードウェアと音楽制作用ソフトウェアをセットにしたバンドリング商品
それまでは専用機材と専門知識が必要だった音楽制作が、ミュージくんの登場でより身近に。
ローランド社がミュージくんを「デスクトップ・ミュージック・システム」と宣伝し、多くの人がこの言葉を耳にしました。
デスクトップ・ミュージック・システムならDMSじゃないの?と思いましたが、D.T.M.S.表記が記録として残っていたりします。
その後、1987年にサービスを開始したオンラインコミュニティ「NIFTY-Serve FMIDIフォーラム」や、1994年「DTMマガジン」の創刊により、DTMという言葉が普及しました。
ここではさらに、DTMとコンピューターの発展を年代別に深堀りします。
1980年代 MIDIの誕生
それまではハードウェアのMTR(マルチトラックレコーダー)が多重録音のスタンダードでした。
1982年にMIDIが策定され、異なるメーカーの電子機器やコンピューター同士で情報をやる取りできるようになります。
MIDI (Musical Instrument Digital Interface):電子楽器やコンピューター間で情報を伝達する国際規格
このMIDI規格に対応したシーケンスソフトがパソコン向けに登場するように。
当時は16ビットパソコンが主流であり、オーディオデータを編集することが難しく、MIDIによる打ち込みが流行しました。
- 1979年:ティアック社「144」発売
- 1982年:MIDI規格策定
- 1984年:Apple社「Macintosh」発売
- 1988年:ローランド社「ミュージくん」発売
- 1989年:Steinberg社「Cubase」発売
1990年代 DAWの台頭
ハードウェア音源モジュールが活躍していたころ。
カラオケデータの作成や耳コピの文化が流行し、DTM人口の裾野を広げました。
1995年にMicrosoft社からWindows 95が登場します。
CPUの向上、大容量HDDによりオーディオデータをパソコン上で録音・編集することが可能に。
次第にDAWが高機能となり、プロの現場で定着していきます。
これらはVSTプラグインへの対応を強化し、パソコンで全てが完結するツールとして熟成していきます。
DAW (Digital Audio Workstation):MIDIシーケンサーとオーディオ録音・編集機能を統合したソフトウェア
VST (Virtual Studio Technology):DAWで使用される技術およびプラグインフォーマット
- 1991年:Digidesign社「Pro Tools」発売
- 1991年:ローランド社「SC-55」発売
- 1993年:Emagic社「Notator Logic」発売
- 1994年:ヤマハ社「MU80」発売
- 1995年:Microsoft社「Windows 95」発売
- 1996年:Steinberg社「VST」提唱
- 1997年:Steinberg社「ASIOドライバ」提唱
2000年代 ソフトウェアがハードウェアを凌駕
これまでハードウェアに依存していたシンセサイザーやエフェクターが、ソフトウェアで再現できるようになります。
それを可能とした理由がCPUとメモリとHDDの飛躍的な向上と低価格化です。
クロック周波数はGHz、メモリはGB、HDDはGB単位で大容量化。
これにより、CDを超える高音質が、大容量サンプリング音源を扱うことが一般的となりました。
2000年代はこれらのソフトウェアが多数登場し、普及します。
一方、動画サイトの相乗効果で、オリジナル曲が脚光を浴びることも。
- 2001年:Celemony社「Melodyne」発売
- 2001年:iZotope社「Ozone」発売
- 2001年:Ableton社「Live」発売
- 2002年:Native Instruments社「Kontakt」発売
- 2007年:ヤマハ社「VOCALOID2 初音ミク」発売
- 2009年:PreSonus社「Studio One」発売
2010年代から現代 クオリティの向上とAIの時代
CPUがマルチコア、SSDが標準となり、パソコンの処理能力を気にすることなく快適な制作環境になります。
モバイル環境のスマホやタブレットでもDTMが本格化。
プロとアマチュアの機材の差が埋まり、サウンドクオリティの平準化が起こりました。
誰もがプロ級の音を出せるからこそ、純粋なアイデアやセンスといった個人の力量が試されることに。
ソフトウェアにない音の質感が求められ、再びハードウェアが注目される場面もありました。
また、インターネットの高速化により、音源のダウンロードやオンラインで制作が可能になります。
ストリーミングサービスの普及で発表の場が広がり、リスニング環境の変化も見受けられます。
しかしながら、AI(人工知能)の台頭でDTM、というより音楽制作そのもののあり方を問われることになります。
- 2012年:Universal Audio「Apollo」発売
- 2014年:Xfer Records社「Serum」発売
- 2016年:KORG「minilogue」発売
- 2016年:YouTube「ラウドネス・ノーマライゼーション」導入
- 2020年:Solid State Logic社「SSL2」発売
- 2023年:Apple社「Logic Pro for iPad」発売
- 2023年:「Suno AI」「Udio」AIによる作曲
終わりに
DTMの起源と進化のおはなしでした。
DTMの言葉を遡ると、ローランド社の「ミュージくん」にヒントが。
さらに、コンピューターの発展=DTMの発展と表現しても良いほど、深い関係性があります。
現代ではDTMを気軽に始めることができる一方で、AIとどう向き合うか考える必要があります。
参考
(PDF) https://www.roland.com/jp/lp/catalog_museum/pdf/NAM-1397.pdf
▼DTMにおけるMIDIとは
▼DTMデスクの考え方
▼ギタリストがDTMする方法