【10年使用した名機】Line6「POD HD500X」はまだ現役か?機能・サウンドを解説
今やHelixシリーズの輝かしい成功の影に隠れた、前世代の「POD HD500X」。
後継機が活躍する今、その存在は日に日に忘れ去られています。
発売当初に手に入れてはや10年。
私の音楽人生の半生を共にした本機が、現代においてどのような意味を持つのか。
その答えを、今だからこそ本音で語ります。
中古での購入を迷っているあなたの、最後のひと押しになれば。
目次
憧れの音に近づけてくれた「POD HD500X」
当時、世はまさにモデリングアンプ戦国時代。
新勢力が続々とリアリティを追求し、そのサウンドは「憧れ」そのものでした。
社会人になり、多少の自由は手にしましたが、プロが使う数十万円の機材はまだ遠い夢。
そんな時、現実的な価格で「憧れに最も近い場所」へと連れて行ってくれたのが、この「POD HD500X」でした。
サウンド(音源あり)
言葉で語るより、まずはこちらを聴いてみてください。
この音を作る上で、私が10年間探求し続けたテーマは「いかにして憧れの音に近づけるか」でした。
その答えは、アンプモデルの選択やゲイン量ではなく、マイクとEQの緻密な設定にありました。
例えば、ハイゲインアンプモデル「Treadplate」。
多くの人はゲインを上げがちですが、この場合あえてゲインを12時程度に抑え、チャンネルボリュームで音圧を稼ぎます。
そして、後段に置いたパラメトリックEQで、4kHzあたりを少しだけカットする。
たったこれだけで、デジタル特有の硬さが取れ、チューブアンプのような粘りと温かみが生まれるのです。
ライブパフォーマンスを支える操作性
足元に並んだ8つのフットスイッチとペダル。
このレイアウトは踏み間違えもなく、絶妙なバランスを保っています。
クリーン・リードの切り替えや、ディレイ・リバーブのON / OFFをフットスイッチに割り当て、曲の展開に合わせて足元で自在に操る。
実際のライブソロでも、この踏みやすいフットスイッチに何度も救われました。
この操作性がライブで使用したくなる所以です。
「8個まで」という制限が教えてくれた、音作りの美学
何を使うかにもよりますが、エフェクターの同時使用は最大8個。
この制限が、逆に音作りの戦略性を高めてくれました。
EQ、ノイズゲートと必須の要素を除くと、本当に使えるエフェクターはせいぜい4〜5個。
この制約の中で、いかにして理想の音に辿り着くか。
アンプの前に置く歪みはどれにするか。
空間系はセンドリターンと同じ効果を得るためにアンプの後に置くべきか。
このパズルのような思考プロセスが、アンプの構造そのものを深く理解させてくれました。
ギタリストの生命線「低レイテンシー」と「音切れゼロ」
レイテンシーは皆無。
プリセットチェンジでの音切れも皆無。
この2点における信頼性は、10年経った今でも特筆に値します。
演奏に集中できる絶対的な安心感は、頼もしい限りです。
豊富な入出力とPC連携機能
本体背面にズラリと並んだ入出力端子のおかげで、様々な環境に対応できます。
宅録環境では、24bit/96kHz対応のオーディオインターフェースとして使用できます。
また、専用のエディタで音作りを細かくセッティング可能。
web上でユーザーが作成した自慢の音作りをダウンロードして勉強するのもいいでしょう。
最大の弱点「IR非対応」と、それを逆手に取る「裏技」
唯一の弱点、それはIR(インパルスレスポンス)が使えないこと。
キャビネットのリアルな鳴りを再現する現代の常識から見れば、これは致命的です。
特にモダンなハイゲインサウンドを求めるなら、内蔵のキャビシミュでは物足りなさを感じるでしょう。
しかし、10年も付き合えば裏技も生まれます。
その一つが、「エフェクターボードとして扱う」という発想。
アンプとキャビネットのシミュレーターを全てOFFにし、お気に入りのアンプの前に繋ぐのです。
IRが使えないなら、本物のキャビネットを鳴らしてしまえばいい。
この使い方ができるのも、豊富な入出力端子を備えた本機ならではの強み。
特に空間系の出来は素晴らしいので、腐らせるのはもったいないです。
堅牢な筐体と中古購入時のチェックポイント
金属製の筐体は戦車のように頑丈です。
狭いステージで蹴飛ばされたり、移動中に落としたり、屋外の風に晒されたり。
数々の過酷な状況を乗り越えてくれましたが、一度も故障はありませんでした。
ただ、一箇所だけ壊してしまったことがあります。
それはUSBの差込口です。
宅録で頻繁にUSBケーブルを抜き差ししていた結果、端子がグラグラになってしまいました。
修理に出したところ、基板ごとの交換となり、およそ1万円の出費に。
中古で購入を検討される方は、次の状態をしっかりチェックすることをおすすめします。
- 全てのフットスイッチとLEDが正常に反応するか
- エクスプレッションペダルの動作はスムーズか
- 各入出力ジャックにガリやノイズがないか
- PCに接続し、USB端子が問題なく認識されるか
今だからこそ言えるメリット・デメリット
メリット- ライブで絶対の信頼を置ける堅牢性と操作性
- 直感的でわかりやすい専用エディタ
- プリセット切り替え時の音切れゼロという安心感
- 圧倒的なコストパフォーマンス
- ライブから宅録までこれ一台で完結
今こうして挙げてみると、なかなか万能選手ですね。
デメリット- 歪みは時代を感じるかも
- IRが使用できない
- 重くて大きいため可搬性は高くない
やはりサウンド面が最大のネックでしょう。
結論「POD HD500X」は、今でも頼りになる「名機」
もしあなたが、以下に当てはまるなら「最高の選択肢」です。
- ギターやエフェクターの基本構造を、手を動かしながら学びたい初心者。
- 限られた予算で、ライブも宅録も高いレベルでこなしたい中級者。
- 最新機材の多機能さに疲れ、「音作りの本質」と向き合いたい上級者。
私はこの機材でたくさんの曲を演奏しました。
しかし、この機材が私に与えてくれた最大の贈り物は、「良い音」そのものではありませんでした。
「POD HD500X」は、完成された音ではなく「音を作り上げていくプロセス」の面白さと尊さを教えてくれました。
制限があるからこそ、創意工夫が生まれる。
足りない部分をどう補うか、知恵を絞る。
その試行錯誤の経験こそが、ギタリストとしての血肉になるのだと。
もしあなたが中古楽器屋の片隅で本機を見つけたら、思い出してください。
これは単なる型落ち機材ではありません。
まだ見ぬ誰かを待っている、今でも頼れる「名機」ということを。
▼強力なライバルたち
▼歪みの正体